ナカムラクニオ著『こじらせ美術館』
美術史は、芸術家たちの「偉大なるこじらせ」から生まれた。
画家にとって、人生は大きなキャンバス、恋愛は絵の具だ。
「こじらせ」とは、【物事をもつれさせ、めんどうにしてしまう】こと。
しかし、この逆風こそが芸術のスパイスとなって画家たちの作品を引き立ててきた。もしゴッホが、真面目な伝道師のまま常に冷静で、どこからもはみ出さない男だったら、あのような命がほとばしる絵画を描けただろうか。もしピカソが、女性関係にクリーンで、アカデミックな肖像画だけを描いていたら、あのような絵画の革命が生まれただろうか。やはり「こじらせ」は、芸術の母なる存在なのだと言えるだろう。そして画家は、こじらせてしまった人間的な弱さがあるからこそ、その作品も愛される。彼らは、どうしようもないダメな人間であることを絵画の中でさらけ出し、見る人に安心や希望を与えてくれる存在なのだ。